建設現場における安全管理の重要性と基本要素・最新技術を紹介
建設業界は、その作業内容から、他の業界に比べて労働災害の発生率が高いとされています。近年は、発生件数が減少傾向にあるものの、全体の労働災害の中で依然として大きな割合を占めているのが現状です。
こうした背景から、建設業界では安全管理の強化が特に重要視されています。ここでは、安全管理における重要なポイントや直面する課題について詳しくご紹介します。
安全管理とは
建設現場における安全管理とは、工程管理、原価管理、品質管理と並ぶ「施工管理業務」の一つであり、作業員の安全を確保するための対策や業務を指します。具体的には、高所作業中の落下を防止するために手すりを設置する、機器のトラブルを避けるため定期的に点検作業を行うなど、作業員の安全を守るための対策が含まれます。
建設現場には、大型機械が出入りしたり重い資材を運搬したり、高所での作業を行ったりなど、労働災害に直結するリスクが多く存在します。事故が発生すると、工期の遅延だけでなく、人命に関わる重大な事態に発展する可能性があります。そのため、万が一の事態を避けるためにも、安全管理を徹底することが必要です。
安全管理の重要性
工事現場では、高所作業や重機の操作など危険を伴う作業が多く、負傷や死亡事故が発生するリスクが高い環境です。施工管理においては、竣工に向けて円滑に進めることはもちろんですが、作業者の命と健康を守ることが最も重要な責任であり、安全管理の徹底が不可欠です。近年では、機材や技術の進歩により現場環境が改善されつつありますが、事故が起こる可能性が完全になくなったわけではありません。
さらに、工事に伴う騒音や粉じん、交通規制などが近隣住民の健康や生活に影響を与える可能性も考慮する必要があります。施工管理者は常に現場の状況を監視し、細心の注意を払って安全を確保することが極めて重要であると言えます。
安全管理の基本的な12の取り組み
以下に建設現場での安全管理についての具体的な取り組みを整理してご紹介します。
- 1.安全衛生管理計画を作成する
- 2.定期的に機器の点検をする
- 3.上下・高所作業時の安全対策をする
- 4.工法を確認する
- 5.危険予知訓練を実施する
- 6.天候に応じた対策をする
- 7.5Sを徹底する
- 8.ヒヤリ・ハットを全員と共有する
- 9.作業員の体調管理を徹底する
- 10.作業員に対し安全教育をする
- 11.コミュニケーションを強化する
- 12.労災発生時に備えた対をする
1. 安全衛生管理計画を作成する
建設現場に関わる元請事業者には、「安全衛生管理計画」を作成する必要があります。この計画には以下のような項目を記載します。
- 安全衛生管理の基本方針
- 安全衛生の目標
- 労災防止対策
- 計画に対する労働者代表の見解
計画的な実施のため、実施期間や次年度計画における検討事項も記載することが重要です。
2. 定期的に機器の点検をする
機器の故障や誤作動による事故を防ぐためには、定期的な点検が不可欠です。始業前後や自然災害発生後などに、現場の機器を定期的に点検することが推奨されます。効率的に作業を進めるために、点検が必要な機器をリスト化すると効果的です。
3. 上下・高所作業時の安全対策をする
上下作業を伴う現場では、物の落下事故が発生する可能性があります。上下作業を極力避けることが理想ですが、避けられない場合は、落下防止用のネットを設けたり、作業員同士で声を掛け合うなどして作業環境の安全を確保します。
また、高所作業時には転落防止策として、手すりや防護柵の設置も必要です。
4. 工法を確認する
正しい工法で作業が行われているか確認することも安全管理の一環です。作業前に作業手順書を作成し、ルールを順守させるとともに、元請事業者が定期的に現場を巡視することが大切です。
5. 危険予知訓練を実施する
作業前には、事故のリスクを想定し対策を考える危険予知(KY)訓練を実施することが有効です。リスクを事前に想定することで、危険の回避につながります。訓練は、全員が参加するタイミングで行うと効果的です。
6. 天候に応じた対策をする
建設現場では天候や季節に応じた対策も重要です。雨天時は足元が滑りやすく転倒リスクが高まるため、事前に対策を講じます。強風時には、現場のシートやコーンが飛ばされないようにし、作業員や近隣住民の安全を確保する必要があります。
7. 5Sを徹底する
「整理、整頓、清掃、清潔、しつけ」の5Sを徹底することも重要です。現場が整理されている状況を継続できれば、物を蹴って落としたり、つまずいて転倒するなどの事故を防げます。
8. ヒヤリ・ハットを全員と共有する
「ヒヤリ・ハット」とは、重大な事故には至らなかったものの、事故につながる恐れがあった事例を指します。これらの事例を全員で共有し、現場全体で注意喚起を行うことで、事故を未然に防ぐことができます。
9. 作業員の体調管理を徹底する
作業員の体調管理も重要です。体調不良の作業員を無理に働かせると、ヒューマンエラーや事故を招く恐れがあります。体調を把握するための管理体制を整え、チェックシートを活用するなど、体調不良を報告しやすい環境を作りましょう。
10. 作業員に対し安全教育をする
危険予知能力を高めるため、作業員への教育を強化する必要があります。現場に配属されて日が浅い作業員だけでなく、経験者にも継続的な教育を行い、作業前にその日の注意点を確認することが効果的です。
11. コミュニケーションを強化する
作業員間での情報共有を増やし、コミュニケーションを強化することも安全管理において重要です。これにより注意事項を共有しやすくなるほか、トラブルや連携ミスの防止にもつながります。
12. 労災発生時に備えた対をする
労災の発生率をゼロにすることは難しいため、万が一発生した場合に備えて原因調査や再発防止策を整えておくことが重要です。事故原因を分析する基準をあらかじめ設定し、日常の業務フローに反映できる仕組みを作りましょう。
このように、建設現場では多岐にわたる安全管理の取り組みが求められます。これらの対策を徹底することで、作業員の安全を確保し、事故の発生を未然に防ぐことができます。
安全管理の具体的な実践方法
建設現場における安全管理は、現場での事故や労災を防ぐために重要な役割を果たしています。以下に、安全管理の具体的な方法とその実施手法について詳しく説明します。
- 事前準備
- 作業場の環境への対策
- 定期的な確認・点検
- 作業員とのコミュニケーション
事前準備
まず、安全管理の最初のステップは事前準備です。施工に入る前に、安全衛生管理計画と作業手順書を作成します。
安全衛生管理計画の作成
安全衛生管理計画では、作業の基本方針や安全目標、事故防止のための具体的な対策を記載します。これは現場の安全を管理するための基盤となり、すべての作業がこの計画に沿って実施されます。
作業手順書の作成
安全を確保しながら効率的に作業を進めるためには、詳細な作業手順書が必要です。作業手順書には、作業の流れや安全措置、注意点が具体的に記載されており、作業員はこれに基づいて作業を行います。
作業場の環境への対策
安全管理では、作業場の環境を整え、事故の発生リスクを最小限に抑えることが重要です。作業場の整備として、段差や通路の凹凸を解消し、転倒のリスクがある箇所には注意喚起の看板を設置します。これにより、作業環境の安全性を向上させることができます。
作業場の整備に加えて、前項で挙げたうち以下2つの対策を行います。
3.上下・高所作業時の安全対策をする
6.天候に応じた対策をする
定期的な確認・点検
作業中の安全を確保するために、定期的な確認と点検を行います。作業で使用する器具や機械の定期点検は必須です。故障があれば安全性が損なわれるだけでなく、作業にも支障をきたします。点検と修理を事前に行い、設置された安全設備も損傷がないか定期的に確認します。
さらに、作業実施日には、安全パトロールを行い、現場の安全が確保されているか、危険がないかを確認します。作業手順が守られているかも確認し、問題があれば即座に対処します。
作業員とのコミュニケーション
作業員とのコミュニケーションを通じて安全意識を高め、事故を防ぐための情報共有が行われます。ヒヤリハットの共有、安全教育と訓練、作業員の体調管理を実施しましょう。
これら4つを徹底することで、建設現場における安全管理を強化し、事故の発生を防ぐことが可能です。安全管理は、すべての作業員の命と健康を守るための重要な取り組みであり、徹底した対策が求められます。
安全管理の最新動向と技術
安全管理の最新動向と技術は、特に建設現場や工業現場での労働災害の予防とリスク管理を強化するために進化しています。以下に、その主な動向と最新技術について詳しく説明します。
- デジタル技術とIoTの活用
- AIとビッグデータ解析
- バーチャルリアリティ(VR)と拡張現実(AR)
- 自動化とロボティクス
- リモート監視とクラウド技術
- 人間工学に基づく設計と作業環境の改善
デジタル技術とIoTの活用
ウェアラブルデバイス
ヘルメットに内蔵されたセンサーやスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスを使用し、作業員の心拍数、体温、活動レベルをリアルタイムでモニタリングすることで、体調不良や危険な状況を即座に検知できます。
例えば、異常な心拍数や高温環境下での過度な発汗を検知すると、即時にアラートを発し、迅速な対応が可能です。
IoTセンサー
建設機械や設備に取り付けたセンサーが機器の稼働状況や異常を監視し、異常が検出された場合は即座に通知されます。これにより、機械の故障や誤操作による事故を未然に防止します。
例えば、クレーンや重機の過負荷状態や異常振動をリアルタイムで把握し、予防的なメンテナンスを実施できます。
3D空間スキャン
現況の図面がない場合、3D空間スキャンを利用し、現地調査と現況のデータを取得し、図面化します。3Dスキャン技術を搭載したカメラを使用して現場にて測量を実施し、測量データを元に図面を制作します。
現地調査の時間を短縮することができるだけでなく、高所作業を減らすことにも繋がり、安全管理に役立ちます。
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AIとビッグデータ解析
リスク予測モデル
AIを用いたリスク予測モデルが開発されており、過去のデータを基にして労働災害の発生確率を予測することが可能です。これにより、高リスクな作業や時間帯を事前に特定し、予防策を講じることができます。
例えば、作業者の動きや振る舞いをAIで分析し、事故が起こりやすい作業習慣を検出して改善する手法が取り入れられています。
画像認識技術
AIによる画像認識技術を活用して、現場の安全管理を行う手法が進んでいます。
監視カメラが作業現場をリアルタイムでモニタリングし、不適切な装備の使用や危険行動を自動的に検知して警告を発するシステムがあります。これにより、作業員がヘルメットや安全帯を着用していないなどの違反行為を迅速に指摘できます。
バーチャルリアリティ(VR)と拡張現実(AR)
VR安全訓練シミュレーション
VR技術を使用した安全訓練シミュレーションが増えています。これにより、現場での実際の事故や危険な状況を仮想空間で再現し、作業員がリアルな環境での危険認識と回避行動を学ぶことができます。
例えば、高所作業や火災が発生した状況を仮想的に体験し、緊急対応の訓練を安全に行うことが可能です。
ARを用いた作業支援
AR技術を使用して、作業員が安全な手順で作業を進めるためのガイドをリアルタイムで表示することができます。例えば、重機の操作方法や点検手順が視覚的に表示されることで、作業の正確性と安全性が向上します。
自動化とロボティクス
自動運転技術
自動運転技術の進展により、無人の建設機械やトラックの使用が進んでいます。これにより、危険な作業環境での人間の労働を減少させ、安全性を向上させることができます。
例えば、危険な地形での掘削作業や資材の運搬を無人で行うことが可能です。
ドローンの活用
ドローンを使用した建設現場の監視や点検が一般化しています。ドローンは高所や狭い場所の点検を効率的に行うことができ、作業員が危険な場所に立ち入るリスクを低減します。また、広範囲の現場監視や資材の配置状況の確認にも使用されます。
リモート監視とクラウド技術
リモート監視システム
インターネットを介して現場の監視と管理をリモートで行うシステムが普及しています。これにより、現場の状況を遠隔地からでもリアルタイムに把握し、迅速な意思決定が可能となります。緊急時には即座に指示を出すこともできます。
クラウドベースの安全管理プラットフォーム
クラウド技術を活用して、安全管理に関する情報を一元管理するプラットフォームが導入されています。これにより、現場でのデータがリアルタイムで共有され、作業員全員が最新の安全情報を常に確認できるようになります。
人間工学に基づく設計と作業環境の改善
人間工学に基づいた機器の設計
人間工学に基づいて設計された機器やツールの導入が進んでいます。これにより、作業者の身体的負担を軽減し、長時間の作業でも安全に行えるように設計されています。
例えば、軽量化されたヘルメットやエルゴノミクスチェアなどが普及しています。
作業環境の最適化
作業場の環境を最適化し、労働者の安全と健康を確保するための取り組みが強化されています。例えば、適切な照明や換気、温度管理を行い、作業員が快適で安全に作業できる環境を提供することが重要です。
労災発生時に備えた対策
労働災害(労災)は、上記のような対策を進めても完全になくすことは困難です。したがって、労災が発生した場合に備えて、適切な対応策を準備しておくことが重要です。具体的には、救急体制の整備や関係機関との連携などを通じて、労災発生後に迅速かつ適切な対応ができるよう事前に対策を講じておく必要があります。
さらに、事故原因の調査・報告や再発防止対策の整備など、事故発生後に組織として適切に対処できる体制づくりも必要です。
事故発生後の対応策
建設現場での事故については、未然に防ぐ努力が最も重要ですが、すべてのリスクをゼロにすることは困難です。したがって、事故が発生した際に迅速かつ的確な対応ができるようにすることが欠かせません。事故発生後に即座に実施する対応としては、以下の2つのステップが中心となります。
労災事故の応急措置
応急措置は、事故発生時に真っ先に行うべき初期対応であり、負傷者の安全を確保し、さらなる事故の拡大を防ぐことが目的です。具体的には、事故現場における危険を排除し(稼働中の機械の停止など)、負傷者に対して迅速な救急処置を行い、必要に応じて医療機関に連絡・搬送します。この段階での的確かつ迅速な行動が、重症化を防ぐ鍵となります。
事故報告プロセス
労災事故が発生した場合、法律に基づいて適切な報告を行う必要があります。例えば、事故の詳細を記録し、労働基準監督署や保険会社へ報告書を提出することなどが求められます。
特に、労働基準監督署には、4日以上の休業を伴う労災の場合、速やかに報告することが法令で義務付けられています(休業期間が4日未満の場合は、四半期に一度の報告が必要です 例:1~3月分は4月末日までに報告)。この報告プロセスを通じて、将来の再発防止策を検討するための重要な情報を収集できます。
また、事故の詳細を把握し次第、直ちに上司や安全管理者に報告し、重大な被害が生じている場合には警察や消防、救急車を手配します。
これらの対応を確実に行うためには、事前の計画と準備が必須です。全従業員が事故発生時に取るべき行動を理解するため、定期的に研修や訓練を実施する必要があります。また、応急処置キットを完備し、それらが常に使用可能な状態にあるか定期的にチェックすることも重要です。
これらのステップをチェックリストとしてまとめ、可視化し、現場で迅速に対応できるよう準備することで、事故発生時の混乱を最小限に抑え、効率的かつ効果的な安全管理を実現できます。
建設業界では、安全が最優先です。万が一の事故に備え、これらの基本的な対応を徹底し、リスクを最小限に抑えることを常に心がけましょう。
まとめ:安全管理は施工管理において最も重要
施工管理において、安全管理は作業員や近隣住民の命や健康を守るために欠かせない重要な業務です。工事現場は常に危険が伴う環境であり、そのため徹底した安全対策を講じる必要があります。
適切な安全管理を実施するためには、専門的な知識が不可欠です。そのため、事前に事故事例を分析したり、施工管理技士の資格取得に向けた学習を通じて、安全管理に関する理解を深めておくことが重要です。こうした準備により、現場でのリスクを減らし、安全な作業環境を確保することが可能になります。
3D空間スキャンを活用し安全管理業務の省力化を図ろう
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3D空間スキャンの活用により、これまで手計測手法で必要だった安全管理や段取りの負担を軽減できます。高所作業に伴う重機搬入や足場設置、作業の安全管理業務の手間を省くことができるためです。加えて、現場調査業務の大幅短縮と図面技術者不足の解消につながります。
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